ヴァージンの不埒な欲望

スープバーには二種類のスープがあり、牛タンシチューを器に入れた。

二人で「いただきます」と手を合わせた。サラダを一通り食べてから、牛タンシチューを口に運ぶ。ゴロッと大きな牛タンは柔らかく煮込まれ、口の中でほどけていく。

「「おいしい」」

思わず溢れた言葉が拓夢さんと重なって、顔を見合わせて微笑んだ。そして、ずっと前、私が子どもの頃にも同じ事があったと、不意に思い出した。

頭の中に浮かんだ、その時の温かな映像を閉じ込めるように、私はそっと目を閉じた。

「愛美ちゃん?」

心配そうな拓夢さんに呼びかけが、耳に届いた。私は、ゆっくりと目を開いた。

「大丈夫?ちょっと、疲れさせちゃったかな?」

向かいの席から、拓夢さんの長い右腕が伸びてきて、私の頬をゆるりと撫でた。

眉尻を下げて笑う拓夢さんに、私は小さく首を振った。

「違うんです。子どもの頃の事を思い出して」

「子どもの頃?」

「はい。小学三年か四年のクリスマスに、家族で、このお店……以前の洋食屋さんだったこのお店に来ました」

微かに微笑んでいる拓夢さんは、先を促すように小さく頷いた。

「兄はハンバーグ、母はオムライス、私と父はシチューを頼みました。その日は、雪が降るとても寒い日でした」


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