ヴァージンの不埒な欲望

道路にうっすらと雪が積もっていた事も、思い出した。はしゃいで駆け出した私は、見事に足を滑らせた。前を歩いていた兄に腕を掴まれ、雪道に尻餅をつくのだけは避けられた。

「走るな、バカ」と注意された事まで思い出し、苦笑を浮かべた。

「お肉がゴロゴロ入っていて、もしかしたら、今日のような牛タンだったのかもしれません。口に入れたら柔らかくて。思わず『おいしい』て呟いてました。そしたら……」

拓夢さんも手を止めて、私の話を聞いてくれている。拓夢さんに見守られながら、私はゆっくりと言葉を紡いだ。

「『うまい』て、父が……私と同じタイミングで、父が『うまい』て言ったんです。やっぱり顔を見合わせて、笑いました。『お肉が柔らかい』とか『あったまる』とか『ゴロゴロの野菜もおいしい』とか。そんなシチューの感想を言い合うのをきっかけに、いつもより自然に父と話すことができました。クリスマスの楽しい思い出です」

休まずに話し終えて、フッと小さく息を吐いた。

「すてきな思い出だね」

笑みを深めた拓夢さんに、私も笑みが溢れた。

「はい。思い出せて、よかったです」

シチューを再び口に運ぶと、さっきよりさらにおいしく感じた。

少しして、ピザとパスタが運ばれてきた。拓夢さんの為にパスタを取り分けた。ちょっとでもおいしそうに見えるように、慎重に鮭とほうれん草をのせていたら、拓夢さんに笑われた。


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