ヴァージンの不埒な欲望
「加賀見さんのお父さん、すごいですね。社長さん、とかですか?」
我ながら単純で幼稚な発想だと、口にしてから気付いた。はっ、恥ずかしい!
「あっ、うん。そう、だね。確かに“社長さん”だ」
拓夢さんの肯定の言葉もぎこちない。拓夢さん、呆れたかも。
企業のトップに立つ人の説得力と迫力に圧され、子を思う親心に絆されたかな。一番の理由はもちろん、加賀見徹という男が好きだからだけど、と拓夢さんは薄く笑った。
愛の告白のような拓夢さんの言葉に、思わず頬が熱を持つ。華やかな笑みの加賀見さんを思い浮かべながら、「いいな」と心の中で呟いた。
「“出世払い”という事で、いろいろ甘えさせてもらった。だから、どんな仕事でもこなしてしっかり稼がなきゃ」
拓夢さんならきっと、“出世払い”を果たすのだろう。悪戯っぽく笑った拓夢さんを見て、そう思った。
デザートを食べ終えた頃、オーナーの前畑(まえはた)さんが、テーブルに挨拶にいらっしゃった。
拓夢さんと私は、お料理が全部おいしかった事と、デザートのお礼を言った。
前畑さんは、背筋がピンと伸びた、コックコートがよく似合う四十代くらいの大人の男性だった。
「あの……牛タンのシチュー、本当においしかったです!子どもの頃に、家族でこちらのレストランに来た事を思い出しました。大切な思い出なんです。ありがとうございました!」