ヴァージンの不埒な欲望
自分で自分の発言に驚きながら、前畑さんを見上げ、懸命に言葉を紡いだ。どうしても、お礼が伝えたかった。
前畑さんは、目尻のシワをさらに深めて、柔らかく笑った。
「牛タンのシチューは、洋食レストランだった頃のうちの看板メニューでした。父の思いを少しでも感じてほしくて、スープバーの一つとしました。こちらこそ、ありがとうございます」
身体を半分に折って深く頭を下げた前畑さんに、私は慌てた。「あっ、いえ、そんな」なんて意味のない言葉を発しながら、私も頭を下げていた。
テーブルから離れる前畑さんの後ろ姿を見送り、向かいの席に座る拓夢さんに視線を移した。
「拓夢さん、ごちそうさまでした!とてもおいしかったです」
背筋を伸ばしてお礼を言い、小さく頭を下げた。言った後で、いくら事前に話していたとはいえ、ちょっと気が早すぎたかなと、恥ずかしくなって俯いた。
こういう事が初めてだから、小さな事にも戸惑ってしまう。自分の経験値のなさに、小さく溜め息をついた。
「どういたしまして。愛美ちゃんと、ここに来られてよかった」
拓夢さんの優しい微笑みに、私の頬も自然と緩んだ。
お店を出て、駐車場に止めてある拓夢さんの車に向かう。と、一組のカップルが歩いて来る。
「「あっ!」」
男性二人が、同時に声を上げて立ち止まる。