初めての甘い恋人
【side 仁】


私は生まれて今までずっと、親の敷いたレールの上をただただ歩んできた。というか、祖父に逆らえなかったというのが正しいか…。


私の父は祖父の後を継がず、自分のしたいことを突き通した。その事により、一人息子の私を跡取りにと厳しく育てた。


私が、高校進学と共に両親はイギリスへ行き、私は祖父のところで跡継ぎとしてだけの勉強しかしてこなかった…。


父は、自分のしたいことのために祖父に私を売ったようなものだ…。


それから、異性との交流も友人関係もすべてなく、唯一友人と呼べるのは小学校時代からの鶴橋 護だけだ。


護も私と同じように、親の敷いたレールの上を歩く人間で、似たような生い立ちからすぐに仲良くなった。


今でも護とは交流がある。アリアの事を相談したのも護だ。アリアの事を気になっていると話した時の護の顔は、忘れられない…。目を見開いて固まったかと思うと、護は『それは一目惚れだよ。仁が……まさかだね。』といって笑っていた。


そんな私が初めて祖父に歯向かったのは、アリアをこのビルで見かけてからだ。


それまで私は会社のため、家のために祖父が選んできた相手と結婚するものだと思っていた。


特別、気になる人はおらず、この家に生まれたからには仕方ないことだと…。


しかし、そんな諦めにも似た気持ちを抱えながらその日も何度目かの見合いを終え、疲れきった体で部屋に帰って来たとき、アリアを見かけたのだ…。


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