蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】

二の一 目覚め

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

左大臣家別宅で、楓に付き添われ少年の格好をした毬は昏睡状態に陥っていた。

「毬っ」

帝から話を聞いた後、龍星はすぐにそこへ駆け付けた。
毬の顔は酷く青ざめていて、龍星から見れば一目で霊気に当たったと分かる。

「安倍様」

楓の夢見るような熱い眼差しを気にも留めず、部屋から追い出して、龍星は毬の枕元で呪(しゅ)を唱えた。
冷静沈着で通っている龍星が、ここまで慌てた姿など誰も見たことがないだろう。

艶やかな深紅の唇に、指先を当て念を込める。

どのくらいの時間が経っただろうか。

霊気が離れ、毬がゆっくりと瞳を開けた。
龍星は心臓が潰れそうなほどの心配と動揺を隠せず、折れるほど強く彼女を抱きしめた。

「龍っ
 ……くるしいっ」

腕の中で毬の声が聞こえる。

……俺の方が、ずっと苦しいよ、毬。

言えない言葉を胸の奥に飲み込んで、少しだけその力を緩める。

「毬、頼むから。 
 もう少し良い子にして」

その言葉に、毬はぷくと頬を膨らませる。

「悪い子じゃないもんっ」

「毬っ」

龍星は思わず、叱責するように声をあげた。

びくん、と、毬が小さな身体を震わせる。

「龍星」

後ろで雅之の声がした。
帝が……おそらく面白がって……雅之も行くように唆したのだ。

龍星は毬から手を離して立ち上がる。
感情の全てを内に押し込めて、慣れたはずの無表情を作り

「頼む」

と、雅之に声を掛けてそこから出て行った。










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