蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「毬、大丈夫?」

雅之が柔らかく声を掛けた。
毬は今にも泣き出しそうな顔で俯いている。

「龍、毬のこと嫌いになっちゃった?」

「まさか。
 心配してるんだよ、とても。
 だから、あんなに感情的になってるんだ」

こういうときは、真直ぐに感情を喋れる雅之の方が強い。

「雅之も?」

「もちろん。
 心臓が潰れそうなくらい心配だった。

 毬が無事で良かった」

雅之が言うと、毬はしょんぼり俯いた。

「心配掛けて、ごめんなさいっ」

潤んだ瞳がいたたまれなくて、雅之は手を伸ばしてその頭を撫でた。

「龍星にもそうやってきちんと謝れる?」

こくりと頷いた毬の瞳から、一筋の涙が流れていた。



謝りながら、毬は昔もそんなことがあった、と思い出していた。

 嵐山で過ごした頃。
 崖から落ちて記憶を無くし、一月以上経ってから元の場所へと戻ったことがある。

皆、心配と不安で夜も眠れなかったと言っていた。

 あの時、私はどうやって誰と過ごしたんだろう。


そこまで考えて、はっと我に返る。

 先刻出逢った少年は、どこにいったのだろうか?
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