蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
気分が乗っているのか、帝は饒舌に話し続ける。

「もちろん、純粋に楽しんでいたのは二人だけで大人たちは真面目にどこの誰か探っていたよ。
 でも、あまりにも完璧な男の子だからなかなか分からなかったんだ。

 左大臣家のお姫様が行方不明になったって話と、ここにいる身元不明の男の子が同一人物だなんて、そんな突拍子も無いこと考え付く人が居るはずがない」

「そんなに大事な人の、手を、放されたのですか?」

龍星が静かに言葉を挟んだ。

「まさか。
 龍星じゃあるまいし!」

帝が鼻で笑う。

「自ら放すわけないよ、絶対。

 ある日一緒に蛍を見に行ったんだ。
 その翌日。
 綺麗さっぱり姿を消していた。

 後で考えたら記憶を取り戻して、左大臣家の別荘に戻ったと考えるのが自然なんだろうけど。そのときは神の使いの寿命の短さに唖然としただけだたった。

 昔話はこれで終わり」

「夕べの話は?」

「そんなに聞きたい?
 人の秘め事を」

帝は一層瞳を輝かせた。
龍星は一歩も引かずそれを見る。


「仕方ないな。
 特別だよ?

 結局まだ、あの子が男か女か、実在するかどうかも分からないんだ。

 夕べ、あの部屋に誰も居なかったからね」

「それは、どういう」

「さぁ?

 楓も息を呑んでいたくらいだから」

帝はもう、楽しい話は終わったといわんばかりに興味なく答えた。



< 29 / 95 >

この作品をシェア

pagetop