蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】

三の一 冷えた身体

「どうした、雅之」

足早に歩きながら龍星が問う。
もはや、御所に居る暇人たちの好奇の視線など気にする余裕はなかった。

「今朝、馬の翁から連絡があった。
 朝起きたら繋いでいたはずの馬が馬場に出ていて、冷たくなって倒れている、と。
 それに乗って一緒に倒れているのは、我らが男装のお姫様だ」

「毬?」

そこに出かけたから帝と遭遇しなかったのだ。
喜ぶべきか、悲しむべきか。
龍星の感情は複雑に揺れ動く。

「そう。
 馬と同じくらい冷たくなって、気を失っている。
 龍星、乗馬は?」

「それなりに」

「良かった。東河の近くだから少し飛ばすぞ」

御所の前に、立派な三頭の馬が居た。
そのうち一頭には緊迫した表情の翁が颯爽とまたがっている。

二人、それぞれの馬にひらりと飛び乗り、次の瞬間そのわき腹を蹴って華麗に御所を飛び出した。

多くの人が行き交う都の中を、一つの事故も起こさず、とてつもない速さで三頭の馬が駆け抜けていったことは、その後しばらく人々の語り草となったほどだ。


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