蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
翁が、姫が落ち着くまでどうぞと言ってくれたので、三人はもう一度小屋の中へと入った。

翁は馬を落ち着かせるため、お茶を準備するとすぐに外へ出て行った。

毬はもう泣いてはいなかったが、心の整理がつかないらしく龍星のほうを見ずに、膝を抱えてしょんぼりと俯いていた。

「毬、折角のお茶が冷めるよ」

雅之が重い口を開いた。

「うん……ありがとう」

毬は手を伸ばして湯飲みを受け取った。

「俺には何も見えなかったから分からないんだけど。
 気持ちの整理がつくなら聞かせて」

雅之の言葉に毬は息を呑む。

「見えなかった……って、太一のことが?」

「太一?」

「うん。男の子でね、私の友達になってくれたの。
 大きくなったら龍と雅之みたいに一緒にお酒酌み交わすって約束したのに」

ぽろぽろと、毬の頬を涙が流れていく。
雅之はそっとそれを指で拭いてやる。

「そう、ごめんね。
 結構そういうの見えるほうなんだけど。今回は全然」

「そういうのって、ねぇ。
 龍!人じゃないの?」

龍星はようやく向けられた視線に切なそうに頷いた。

「あれはね、死んだことに気付かなかった子供の霊なんだ」

「嘘っ」

毬が感情的に声を上げようとするのを、龍星が封じる。

「本当だよ。実在する人を呪で消すことは出来ない」

そっと毬に近づいて、その頭を撫でた。
壊れ物でも扱うように、そおっと。

「だから、毬が本名を名乗ってなくて本当によかった。
 名乗っていたら、連れて行かれたかもしれない」

毬はようやく事態に気付いて、青ざめた。

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