蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
そして、何かを決意したようにゆっくり口を開く。

「私には双子の兄がいたの。すごく似ていた。兄は男っていうだけで、そこら中走り回って遊んでいて、私はいつも屋敷の奥。

悔しいからしょっちゅう兄の着物を着て遊んだわ。


兄が居なくなるまでずっと」

「居なくなる?」

毬は深く頷く。

「お父様は流行病(はやりやまい)で亡くなったと言ったわ。でも私は遺体を見てないの。

でも、お母様が私の姿を見るのが辛いと寝込まれたので、嵐山に行くことになったの」

辛い過去を淡々とまるで他人事のように喋る毬を、龍星はふわりと抱き寄せた。

「今夜は飲んでないの?」

酒の匂いがしない龍星を毬が至近距離で見上げる。

「ええ。飲む気にならなくて」

毬は黙って庭を見た。
近くの川から迷い込んだ蛍が二匹、幻想的な光を放ちながら舞っている。

「それで、お兄様のために着物を着ているんだ?」

毬は頭を横に振る。

「違うわ。
男の子みたいにしていたいの、すごく楽しそうだから」

毬は諦めたように心の内を吐露した。


「でもね、龍の傍にいる時だけは、お姫様で居たいの。よく分からないんだけど、本当よ」
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