蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
六 薫風の中で
コーン
コーン
遠くからキツネの声がする。
毬は身体を起こした。隣に龍星はいない。日は既に高く昇っていた。
頭にはかんざしがついていた。龍星にあげた、あのかんざしだ。
少し考えて、毬はそれが似合う女性物の着物を身につけた。
もちろん、屋敷の奥に常駐する姫君が纏うような重苦しいそれではなく、軽やかなものだ。
「毬さま、おはようございます」
華が丁寧に挨拶をする。
「おはよう、華さん。すっかり寝坊してしまったわ。龍星は?」
「御所から呼び出しがありまして、渋々お出かけになりました」
「そう。
私も少し出かけてくるね」
毬は華の制止を振り切って、安倍邸を後にした。
コーン
コーン
キツネの声はまだ止まない。
その声を追って、南大門の方へと足を進める。
キツネは、門の外にちょこんと座っていた。
尻尾が八つ又であることを除けば、まあ、どこにでもいそうな可愛い動物だ。
毬は門の内側で口を開いた。
「私のこと呼びました?」
「龍星の想い人に興味があってな」
その声は初老のように貫禄がある。
コーン
遠くからキツネの声がする。
毬は身体を起こした。隣に龍星はいない。日は既に高く昇っていた。
頭にはかんざしがついていた。龍星にあげた、あのかんざしだ。
少し考えて、毬はそれが似合う女性物の着物を身につけた。
もちろん、屋敷の奥に常駐する姫君が纏うような重苦しいそれではなく、軽やかなものだ。
「毬さま、おはようございます」
華が丁寧に挨拶をする。
「おはよう、華さん。すっかり寝坊してしまったわ。龍星は?」
「御所から呼び出しがありまして、渋々お出かけになりました」
「そう。
私も少し出かけてくるね」
毬は華の制止を振り切って、安倍邸を後にした。
コーン
コーン
キツネの声はまだ止まない。
その声を追って、南大門の方へと足を進める。
キツネは、門の外にちょこんと座っていた。
尻尾が八つ又であることを除けば、まあ、どこにでもいそうな可愛い動物だ。
毬は門の内側で口を開いた。
「私のこと呼びました?」
「龍星の想い人に興味があってな」
その声は初老のように貫禄がある。