蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
そのあばら家を龍星がみた限りでは、邪悪な妖気は感じ取れなかった。

悪気のない、無邪気な子供の霊なら確かにそこにいたが、それは「水子の霊」ではない。
女とは縁も所縁もない、病気で早死にした子供の霊だった。

聞けば居心地が良いのでそこに住み着いているという。

「本当に、悪戯を繰り返しているのですか?」

龍星が冷たい眼差しで問う。

「私が、嘘をついているとでも?!」

感情的に言って、女は再びさめざめと泣き出した。




ああ、と、龍星は思う。
これは泣けばなんとかなる、と、思っている女の一人だ。

確かに容姿も悪くない部類で、こうやって男に甘やかされて生きてきたのだろう。

「具体的にはどのような?」

龍星は感情のない声で聞いた。
出来ることなら今すぐ帰りたい。
とはいえ、明朝再び同じ女から起こされることだけは避けなければならない。

泣き落としが通じないと気付いたのか、女はしゃくりあげもせずに答えた。

「軽いときには墨壷をひっくり返したり、本を全部床に落としたり。
 魚を焼いていたらそれを蛙と取り替えてみたり。
 蛙よ、蛙の丸焼き。ああ、思い出しただけでゾっとする。
 酷いときには私の首に紐を巻きつけて殺そうとするんですっ」

言われて見てみれば確かに、首に紐の跡が残っている。

しかし、そこにいる子供の霊が最初の3つは自分の仕業だが、4つ目は絶対に違うと龍星に告げた。

居心地の良い場所を自ら無くそうとするなんて、確かに矛盾していた。




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