蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
毬は一人、東河まで歩いてきた。

人の目が痛い。

普通の姫はこんな良い着物を来て独りで出歩いたりはしないので、いたしかたないとも思う。

西の空はゆっくり橙色に染まっていた。


……どうしたら良いのかしら。


毬は胸の奥の痛みに堪え切れず瞳を閉じる。


男の子になりきれず
姫にもなりきれず
何か芸を身に付けているわけでもなく

ただ、他人を振り回してばかりの日々。


雅之みたいに、何かしらの努力をしたわけでもなく、
千のように、自分の立場を作り上げたわけでもなく、
帝のように、生まれた時から決められた枠の中で精一杯振る舞うわけでもなく、
龍星のように、持てる力の限りを尽くし、鬼と戦うわけでもない



これでは、嵐山を彷徨っていた時と何ら変わりがない。
口ばかり達者で無い物ねだりしているだけの、ただの子供だ。


いくら、自由に走り回る男の子に憧れ、よしんばそれになれたとしても、数年後からは宮仕えが待っていて、そうなればもう自由なんて手放すほかない。


そういう意味では男も女も大差ない。



……そんな、誰でも分かっていて受け入れていることに気付くのに、どうしてこんなに時間がかかってしまったのかしら。
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