蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】

七の一 蛍の光

川のせせらぎ。
カラスの鳴き声。
人々が行き交う音。

目を閉じていると、普段見逃しがちなささやかな物音がはっきり耳に飛び込んでくる。



柔らかな衣擦れの音。
大好きな香(こう)の匂い。


それが優しく近づいて来るのが分かったから、不意に抱き締められても毬はさほど驚かなかった。

むしろ、息を呑んだのは周りにいた人々だ。

人嫌いで有名な龍星が、姫君をその腕に抱き寄せているのだ。それも公衆の面前で。


「こんなところに独りでいたら、攫われますよ」

「龍が攫って」

毬は瞳を開けて龍星の胸に頬を寄せた。


この迷いや不安ごと、龍星が攫ってくれればどんなに良いだろう。

「いいよ。目を閉じて」

目を閉じると、ふわりとした柔らかい何かに包まれた気がした。
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