蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「目を開けて」

「うわあっ」

毬は振り向いて声をあげた。

辺り一面に広がるのは、幻想的なまでに飛び交う蛍の群。


「龍、すごいっ」

毬の頬は自然に弛む。
龍星は毬の手をとると、歩き始めた。

「橋の上で、何をしていたの?」

「私、どうして何も出来ないのかなって。
考えていたら、身動きが取れなくなっちゃった」

「そう?」

「ただ、男の子に憧れていただけで。
雅之みたいに努力もしないし、お姉様みたいに全てを受け容れたりもしないし、帝みたいに決められた世界の中で何かを極めようともしないし、

龍みたいに特別な力があるわけでもなくて」

毬は一息ついて、さらに続ける。


「私なんて無力よね」


「皆、毬に救われている。俺に出来ないことを毬はちゃんとやってるよ」

思いがけない言葉に毬は顔を上げた。

真っ直ぐで誠実な瞳がそこにあった。


「それに、毬は今言った人の中で一番若い。
今から捜せばいい」

「今から?」

「そう。これからやればいい。
焦ることないよ」

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