蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
彼女の心が解(ほぐ)れたのを見届けて、龍星は改めて問う。

「九尾の妖狐(きゅうびのようこ)に会った?」

毬は首を捻る。

「尻尾は八つだったと思うのだけど」

ふう、と龍星は息を吐く。

「一本、俺が切り落とした」

「……?!」

毬は目を丸くした。


「俺の先祖に安倍晴明(あべのせいめい)って方がいてね。その方の親が狐だという話があるんだ」


あまりにも突拍子ない話だが、毬は黙って耳を傾ける。


「それが真実だからか、それともその話に付け込んでいるのか、物心がついた頃からあいつは近くにいて、ことあるごとに俺を敵対視してるんだ」

「強いのね」

「あるいは幻覚でそう思わされているだけなのかも。
蛍だって、普通の虫なんだよ」

龍星は飛び交う蛍の一匹をその手に掴んだ。

「まあ、綺麗」

毬は瞳を輝かせてそれを見つめた。

近くで見れば、それは確かに虫だった。

死人の魂でもなければ、星の欠片でもなく。



ぼう、と、淡い光を放って蛍は龍星の手を放れる。
< 90 / 95 >

この作品をシェア

pagetop