幸福に触れたがる手(短編集)
一月二日。
篠田さんが自宅から段ボールを持って戻ってきた。段ボールの中には人生ゲームやトランプ、オセロやダーツ盤、お正月らしくかるたやすごろく、福笑いや羽子板なども入っている。
「知明の部屋本当に何もねえから、色々持って来た」とのことらしいけれど、なぜアナログゲーム縛りなのだろう。テレビやDVDプレーヤーはコンセントを抜いているし、オーディオはないけれど、別に電化製品アレルギーというわけでも機械音痴というわけでもないのに。
「色んなもの持ってますね」
物色しながら言うと「全部もらいもん」らしい。
「アナログゲームが好きなんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。なんだろうな、周りに子どもっぽいって思われてんのかも」
次に取り出したのは雑誌だった。表紙は薔薇を一輪持った面長の男性で、大きな字で『月刊SHINTARO』とある。
普段雑誌はあまり読まないし、特に男性ファッション誌なんて立ち読みしたこともないけれど、こういうものもあるのかしら。と思っていたら……。
「これ昔、俺らが趣味で作った雑誌」
「え?」
「仲良いやつらで何か面白いことしようって話になって。じゃあ真太郎、ああ、表紙のやつな。真太郎のことだけを取り上げた雑誌を作ろうって」
ぱらぱらとページを捲ってみると、『真太郎』さんという男性が色々な服を着てポーズを決めている写真がずらり。細かいプロフィールや質問、インタビュー。コラムや次号予告まである。『真太郎』さんの最新情報では、彼のアルバイトのシフト表が書いてあった。
しかも『月刊SHINTARO』は三冊もある。結構続いたらしい。
素人が趣味で作ったものとは思えない出来栄えに、思わずふっと噴き出してしまった。
「凄いですね。写真もコラムも。本当の雑誌みたい」
「結構大変だったんだぞ。スタジオ借りて、みんなで私服持ち寄って着替えさせて撮影して。インタビューして、抜粋してまとめて、書いて。まあ書いたのはほとんど友佑ってやつなんだけど。あとは出版社に勤めてる知り合いに印刷所紹介してもらって。人数分刷ってもらった」
「篠田さんは何を担当したんですか?」
「俺は企画と、あとは色々口出してた」
「製作総指揮って感じですね」
「格好良く言えばな」
それにしても凄い。企画してそれを実行に移せるなんて。わたしじゃあこんなこと思いつかないし、思いついたとしても実行できないだろう。