幸福に触れたがる手(短編集)
「浮気もドタキャンも散々した。クリスマスや誕生日だって無視したりしたけど、それは知明に嫉妬してもらいたかったからで……。知明がもっと甘えてくれれば、俺だってちゃんとしてた!」
「……」
「俺も悪かったけど、知明だって悪いんだからな。物分かり良すぎて、本当に俺が好きなのか不安になるんだ。俺が何やっても何言っても全部肯定するし、基本受け身で知明から誘ってくることなんて一度もなかったし」
「……」
なんと返事したらいいのか分からなくて、ただ周司を見つめたまま立ち尽くしていたら、がさ、と音をたてながら、篠田さんが手を上げる。
「口挟んで悪いんだけど、いいかな」
周司は睨むように篠田さんを見上げる。周司より篠田さんの方が十センチくらい背が高いせいだ。
「寄りを戻したいっていうのは分かったんだけど、後半こいつの悪口になってるけど」
「仕方ないだろ、三年付き合ったんだ。付き合う前の友だち期間を合わせるともっと一緒にいた。不満はひとつやふたつじゃない」
「そんなに不満があるのに、寄り戻して結婚したいって?」
「ああ、そうだよ。知明は結婚に向いてる。この物分かりの良さは夫婦円満に繋がると思う。知明といると、俺が楽で良いんだ」
「つまりそれは、自分のために知明と寄りを戻したいってことだよな?」
「知明だってそう思ってるはずだ! 三年だぞ、三年。三年も付き合ったんだから、知明だって俺といて楽だったはずだ! そうじゃなきゃ、何年も一緒にいるはずない!」
「いや、だからそれはきみの意見だろ。こいつの意見じゃない」
「あんたに俺と知明の何が分かるんだよ! 俺は四年前から知明を知ってるんだぞ、あんたはいつからの知明を知ってるんだよ!」
「四日前」
「はあ? 四日? 話になんねえ!」
ふたりの会話を戸惑いながら聞いていたら、突然「で、おまえはどうしたいんだ?」と。篠田さんがわたしに話を振ったから、驚いて肩が跳ねた。