幸福に触れたがる手(短編集)
周司と寄りを戻すか、戻さないか。
周司とは四年前に知り合って、三年付き合った。何度も浮気されたし、ドタキャンなんてしょっちゅう。季節ごとのイベントをしたことはほとんどなくて、デートも周司の気分次第。
それでもわたしは周司と一緒にいて、何もかも肯定してきた。
その三年は、長くて重い。なかったことになんて、できない。楽しく笑ったことだって、きっとたくさんあったはずだ。
でもここで寄りを戻したら、その先には周司との結婚がある。「夫婦」になったら、その先は「親」になる。
この三年の付き合い方で、果たしてちゃんと「親」になれるだろうか……。
考えるまでもなく、結論なんてとっくに出ていた。
「ありがとう、周司」
感謝の言葉に、周司の顔がぱあっと明るくなる。
でもわたしは首を横に振って、彼が予想した答えを裏切った。
「でも、ごめんなさい。周司とやり直すのは、無理だと思う」
「知明……」
「確かにわたしは、周司が言うようにつまらなくて張り合いも可愛げもない女だった。そのせいで周司には嫌な想いもさせていたと思う。本当にごめんね」
「……」
「別れを切り出されたときは驚いたけど、それよりも納得できた。そういう結末にしか成り得ない付き合いをしていたから」
「……」
「周司が今度付き合う相手とは、幸せになってほしいって。心から願うよ。三年間ありがとう」
ぺこりと頭を下げたあと顔を上げて、唇を噛んで俯く元恋人を見据える。
そうしていたら篠田さんがわたしの手を引いた。
でも周司とすれ違う直前、篠田さんが突然立ち止まるから、後ろに仰け反って転びそうになった。
「周司くんさあ、知明から誘ってくることなんて一度もなかったとか、全部肯定するとか言ってたけど」
「……」
「知明は自分からキスもするし、抱きついたりもするし、嫌なことは断ったりもするぞ」
「……」
「ま、知り合ってまだ四日だから、まだまだ周司くんには遠く及ばないだろうけど、きみよりは上手くいってる」
「……」
「じゃ、ハッピーニューイヤー。行くぞ、知明」
周司からの返答はなく、それを待つこともせず、再び手を引かれて、今度こそマンションの中へ入った。