幸福に触れたがる手(短編集)
「あの……篠田さん」
「ああ……」
「えと、すみません。何のことを言っているのか、詳しく説明してもらってもいいですか……?」
「……は?」
「謝罪されている理由が、いまいち分からなくて……」
「……はあ?」
なんだこの温度差は。
身体を離すと、目に涙を浮かべてはいるが、きょとんとした彼女の顔。本当に解っていない顔だ。
「いや、だから、昨日ひでえこと言ったろ? 好みの女がいたら持ち帰るだとか、女のレベルが違うだとか……」
「ああ、はい」
「おまえのこと信じていないとか……」
「でも言っていることは間違っていませんよね。信じてもらえるほど長い付き合いでもないですし、篠田さんの周りにはモデルさんや女優さんがたくさんいて、わたしたちとはレベルが違うだろうし。好みの子がいればそりゃあ持ち帰りますよ。そもそも合コンは出会いの場ですし」
「いや、そんなこと思ってねえから」
「?」
「おまえを合コンに行かせたくなくて、思ってもないこと言った」
「あ。それがさっき言ってた嫉妬ですか。ありがとうございます」
「……」
いや、ほんとなんだこの温度差……。昨日のことで泣いてたんじゃないのか?
「合コンは行きませんでした」
「やっぱり……」
「もし行ったとしても、所詮は人数合わせですし。万が一男性に誘われることがあっても、わたしは素敵な恋人がいて、人数合わせで参加した旨を話すつもりでした」
「……」
「でも篠田さんは行くこと自体反対しているみたいだったので、篠田さんが嫌がることはしたくないなと思って。ゆうべあの後断りの電話を入れたんです」
俺は彼女を過小評価していたのかもしれない。
思っているより彼女はずっと俺のことを考えていてくれて、思っているよりずっと俺を好きでいてくれるみたいだ。