こちら、メディア検閲科
偶然の塊
マドンナに告白した翌日。

屋上から風がただ漏れだったのか、クラスの皆の間では俺の話で持ちきりだった。
男友達からは小突かれたし、女子はいかにも憐れ、というような眼差しで見てきた。

いや、放っておいてくれよ。
何で知ってるんだよ忍者か。

中でも幼馴染みのトシオは大爆笑だった。
秋刀魚神の如く。

「泰一何やってんだよー!何マドンナに振られてんだよー!」

「やめろよー、放っておいてくれよー」

同じようなノリで返してるんだけど、
案外辛いね。
常に玉ねぎ切ってる感覚だよ。

「しかも生徒会長の彼女に手を出して大丈夫なのかよー?
学校追い出されるんじゃねぇのー?」

「ねーよー。ないない。大丈夫だって。
彼女めっちゃ振ったし。もうこれで終わりだし。
てかもうマジ終わりにして。頼むわ。」

「あらー、黒歴史になったんやなー。」

によによと笑うその姿に心はへし折られる。

その時に教室に入った担任をどれだけ拝んだことか。

後に彼は俺の名誉を回復させてくれた救世主になる。

「おーい、お前ら席につけー!」

学園ドラマでお馴染みの台詞を発しながら、担任は教壇に立った。

「二年最後に受けた模試の結果が返ってきているー。」

突然の一言にざわめくクラスメート。
不満をもらすその姿を無視して担任は呼び掛ける。

「男女出席順から取りにこーい。おらトシオー!」

トシオが「中の下ー」と返事をして取りに行った。
腹立つけどあいつ俺よりも頭がいいんだよ。成績は真ん中からちょい下あたり。
成績表去年見せられたから知ってる。
ひたすら憎い。

「お前今回絶対寝てたろー!前回からがた落ちしてんぞー!」

担任のツッコミにトシオはにんまりする。

「いやっすわ先生ー。
模試なんていい点とれるかどうかは
もはや確率ですってー。
てか俺就職組だしあんまし勉強要らない的な?」

「バカやろー、就職試験に要るんだよ。はい次ー。」

気が抜けた声にぞろぞろと参列するクラスメート。

俺も齋藤で男子の真ん中辺りだから取りに行こうと立ち上がった。
でも自分の順番になったところで追い払われた。

「あー齋藤ー。すまんが座っといてくれ。
後で渡すからー」

「ア、ハイ。」

何もう、怖いんだけど。

番号は巡り、俺以外全員受け取った。
隣でトシオが成績表押し付けてくる。やめて。

担任ははーい注目と俺のであろう成績表を手にしていた。

……そい、やめろ。何をする。
まさか最下位の見せしめをするのか。
教育者なるものそれは許されんぞ。
これ以上俺に恥をかかせて何になるんだコレ。

「今回は新しい『メディアリテラシー』の教科が入った。
ニュースについての色んな記事の中で一番正しい情報を判断してマークをする。
俺も正直意味が分からなかった。
当然成績はいつも以上に悪い。
でも皆に聞いてもらいたいことがあるー。」

少しだけ生徒たちがざわざわと音を立てた。おい、担任。命が惜しければ成績表を戻せ。
今なら首を閉めかねん。

だが担任は俺の殺意に対し、めっちゃ普通に視線を送った。

「おいサイトー。」

「何すか。」

返事をしたら、手招きをされる。
え?何?
俺何されるの?

前に出たら皆の視線が痛い。
もう一体何なんだよ……

「おめでとー。」

「え?」

え?

担任が口角を吊り上げ、手を差し出した。
何?最下位授賞式でもするの?
恐る恐る握手をかわす。
すると担任は俺を除いた生徒たちに顔を向けた。

「皆聞けー。サイトーの快挙だ。
全国平均35点を記録したこの『メディアリテラシー』で、
サイトーはまさかの96点。全国一位となったー。」

「えええええええええ?!」

クラス全体で悲鳴が上がる。
俺は茫然として動けなかった。
……ファ?!
担任がばつが悪そうに頭をかく。

「ごめんなサイトー。正直俺お前の今までの戦歴を見て、
将来諦めろと言おうとしてたんだけど、お前にもずば抜けた才能があったんだなー。
校長も大喜びだ。この時間終わったら校長室行けよー」

「え、え?……ア、ハイ。」

わけわからん。

するとトシオが先生ーと叫んだ。

「一位ってどんなの?!俺見たことないから見せてー!!」

すると朗らかそうに担任は笑う。

「プライバシーで他の生徒たちへの成績公開は禁止だー。
……と言いたいことだけど今回は称賛されるべきだしなー。それオープn……」

「やめろおおおおおおおお!!!!」

必死で担任から成績を奪い取った。
案の上メディア以外は最下位だった。校長室までの廊下で、俺は戦慄していた。
前には猫背気味の担任が歩いている。同行するスタイルらしい。

でもそんなのは もうどうでもいい。
ミカンの皮ぐらいどうでもいい。

何が起こったんだろうか。
模試当日、俺はただマークで半身ドラ〇もんを描いていただけだというのに。

偶然にしても程があるだろ……。
どんだけすごいんだよドラ〇もん……。

「コウチョーコウチョー、連れてきましたー。」

担任が適当にノックをする。
すると貫禄のある声が返ってきた。

「入りなさい。」

俺はただ担任に背を押されて校長室に入室した。
中央剥げ。丸い体格。
彼の姿はベストオブ校長。
……そうトシオが言ってたっけ。
でも俺はそんなの眼中になかった。
何か校長室の脇に大勢のカメラマンとかインタビュアみたいな人が構えているんだけど。

「あぁ、齋藤君。どうぞこちらに掛けてくれ。」


ソファーに座るように校長が促し、
俺はあ、ども、と鎮座する。
担任は「じゃーコレでー」と出ていってしまった。

校長は俺の手前のソファーに掛ける。
カメラマンも俺に対するようにスタンバイした。
校長、後ろでちょっとした渋滞が起きてるんだけど……。

「齋藤泰一君、今回は本当によくやってくれた。
学校長として心から尊敬しているよ。
本当におめでとう。」

「……あ、ども……」

求められる校長の握手。
手を握ると隣のカメラマンが超フラッシュを発動した。
あ、やめて目が、目がバルス。

「君の担任から今までの君について、先日聞かせてもらった。
どれだけ努力を重ねても成績が思うように伸びず、苦戦していたようだね。
でも努力を重ね、今回のこの快挙に結びついたんだ。
全国一位。君の成績は学校を飛び越えて全国の頂点を取ったのだ。」

「……へぇ……」

そんな壮大にしないで校長。
たまたまだから。ほんとこれ偶然だから。
そんなこと言って次テキトーにして最下位取ったらどうしてくれんのよ。

「さて、本題だ。今年度新科目『メディアリテラシー』が出来たように、大学では新たな学科が生み出された。
それは唯一日本でもトップクラスの国立大学に設置されている、『メディア検閲科』だ。」

「『メディア』……え?」

「あちらの学校長も君のほぼ満点成績に驚きを隠せないようでね。先日連絡をしてくれたんだ。そしてなんと……」

校長が隣に置いていたクリアファイルに手を伸ばし、一枚の紙を取り出す。
そして微笑みかけた。

「君を特待生に認定。入学許可を頂いた。」

差し出されたその紙。
困惑なんてもんじゃない。

「……ファ?!」

先生の背後からまたフラッシュが交差した。
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