食わずぎらいのそのあとに。
「でも『お前が今日1日考えてるようなことを、何週間もごちゃごちゃ考えてるんじゃないのか』って。俺が気づかないから言えなかったってのはわかってる。ごめん、ほんと」
怒ってる風にふるまいながら、結局は優しい。また泣くって思われるのに、気付いたらもう泣いてた。
「泣くなよ」
ダイニングテーブルに身体を乗り出して、下を向いた私を覗き込んでくる。 ごめん、こんな時に泣くのはずるいってわかってるのに。
「言ったら、結婚してって言ってるのと同じだから。そんなの考えてないのわかってるし、仕事だって楽しそうだし、うちにも来ないし、タケルはまだ若いし。こんな風に追い詰めるつもりなかったのに」
顔を上げられないまま言った。もっと落ち着いて話すつもりだったのに、全然だめだ。
「追い詰めるって……避妊失敗したの、俺だよね? なんで香がそんな責任感じてんの」
「責任って……そうじゃないの」
誰のせいとか責任とかそういう話じゃない。伝わらない、かみ合わない。
「私は責任とかそんなのじゃなくて、ただ嬉しかったの。でもタケルにとっては違うってわかってた」
「嬉しかった?」
心底驚いたという声に聞こえた。わからないよね、男の人には。好きな人との子供がおなかにいるって言われたら、うれしいんだよ。どんな状況だって。
テーブル越しに手を伸ばして髪をふわりとなでてくれながら、タケルがまた話し始める。
「妊娠は確かに驚いた。嬉しいかって言われたら、正直実感がない。でも、考えてたよ」
「何を?」
「結婚」
うそ。優しいんだから、そんなこと言って。こういうところが好き、と思わず笑顔になる。
「嘘つかなくていいよ。私だって考えてなかった」
「知ってるよ。前の男が結婚しようって言ったから別れたんだよね?」
「そうだけど。それとこれとは関係ないでしょ」
別に結婚したくないわけじゃない。ただあの人とは考えられなかっただけで。
タケルは深く息を吐いて、「関係あるだろ、普通」と独り言のように呟いた。