食わずぎらいのそのあとに。
先日、チームリーダーへの抜擢と私の妊娠を田代さんが告げたとき、沢田は『驚き過ぎて魂が抜けた』そうだ。
『平内と香さん』はありそうだけど絶対ない、と皆に沢田が言っていると真奈から聞いたことがあるので、無理もないけど。
そして、変に遠慮せず早くも上司として振舞うことにしたようで、頼もしいなと思う。
心底嬉しそうだ、出世したのが。
「あ、ごめんね、私のことでみんな驚きすぎて、沢田の昇進あまり祝われてなくない?」
「いいです、いいです。それはそれでプレッシャーなんで。俺はダークホースとして上を狙いますよ」
どこまで本気かわからない野望を明るく披露してくれる。
「ここだけの話ですけどね」と沢田が得意の噂話を始めるときの口調に変わった。
「沢田、仕事しようね」
そこは先輩ぶって言ってみるけど聞く耳持たなそうにニヤリと笑う。
「俺、平内に頭下げられちゃってるんですよ。香さんには言うなって言われてるんですけどね。無理するんじゃないかって相当心配してるみたいですよ」
タケルが頭を下げた? 私に無理させないでって?
真奈が嬉しそうに「きゃー」と声を出す。
「さすが平内さん。溺愛ですよね」
「お前いつから知ってたんだよ」
「最初っからですよー。沢田さんが言ってた『健太』はかわいい甥っ子ちゃんですよ」
そうそう、沢田はなぜか私が健太と電話で話していたのを勘違いして、『健太』という彼氏ができたんだと思い込んでいた。