ビルに願いを。
来る途中で聞いたのだが、メアリさんは弁護士事務所のキーパーソンの1人で、先日のパーティに来てなくて社長ががっかりしていたんだって。

私の間違い電話の相手だというのはうまく伝わっていなかったらしく、メアリさんの説明に社長は驚いた顔をしていた。

「メアリさんに会えたのに、フェニックスの話はしないんだね。いいの?」

こそっと隣の丈に話しかけると「コネクションができてるからこれでいいんだろ。杏のおかげだよ」と囁かれ背中に回されていた手で頭をなでられた。

「本当にケイティみたいね」

向かいに座っているメイが感心したように呟いた。え? 犬扱いっぽいの、今の? いまだにそう?

「丈にそんな顔させるなんて、人間じゃないわ」

「本当にな。どこが似てるんだかわからないが」

「アンにもケイティに会って欲しかったな」

社長と2人で、褒められているような気もするがよくわからないことを言われている。丈はケイティを思い出したんだろう、悲し気に少し微笑んだだけで何もコメントしなかった。

そういえば、ケイティに見た目が似ているわけでもないらしいけど。最初からいつも眺められていたよね、私。




「ケイティに似てるから眺めてるんだと思ってた」

丈の部屋で2人きりになって、思い出して言ってみる。見た目はケイティに似てないってことなの?

「話しかけても答えてもくれなかった時にも、見てたでしょ?」

「見るだけにしようと思ってたから」

答えになってない。

「だから、見た目は似てないんでしょ? なんで?」

「なんでも聞くな、考えろ」

こん、と軽く頭を叩く。それ、仕事で時々言われてる。でも『ケイティに似てるから置いときたい』て言ったの、覚えてるよ?

撫でたいなぁと思ってたとか? と考えてたら、また楽しげに眺められてることに気づいた。

「いつ見てても見飽きないな、杏は」

クスクス笑って髪を撫でる。

「触ったら誠也の思惑どおりだなって我慢してたんだけど、ダメだった」

「それ、いつの話?」

「今」

はぐらかされてキスになる。「もう」と怒って見せたら「置いとくだけのつもりだったのにな」とまた言って、ソファに押し倒された。

「俺のだってすぐわかった。ケイティの時もそう」

またペット扱いみたいだけど、なんだかすごいことを言われてる。基本的には自信家でわがままなんだった、この天才さんは。


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