ビルに願いを。
2人でいる時にそう言ってみたら、丈はまたあの色っぽい目線を送って来る。わざとなの、それ?

「ひとりにできるわけないよな、こんなの」

「私? 流されやすいとかそういうこと? でも麻里子さんも圭ちゃんも反対してたのに、やっぱり好きって言おうって自分で決めたんだよ?」

「俺のケイティは犬だけど、杏の圭ちゃんは人間だからね」

「まだ疑ってるの? 妹をよろしくって言われたでしょう?」

首をすくめて、丈は何も言わない。なんにも気にしてない風で、意外と嫉妬深いんだ。

でもちょっと嬉しい、そういうの。





一緒に住まないかと言われたのは、それからすぐ後のことだった。

丈のホテルの部屋でルームサービスで朝食をすませたとき。もったいないと言ったら、一緒に住めば丈が作ってくれると言う。

圭ちゃんの了承はもらったんだって。いつのまに。

「ていうか、圭ちゃんがいいって言っても」

まず私に聞いてからにしてくれたらいいのに。もちろん嬉しいけど。

「杏の両親にもあいさつに行く?」

思ってもみないことを言われた。これも、圭ちゃんと話したこと?

「ママには、ずっと会ってないから」

「圭さんがいつも杏のことを両親に報告してるって」

それは知ってるけど。まともな仕事をしてると聞いて少しはホッとしてると思うけれど。

でも、結婚してないのに男の人と一緒に住みたいなんて、ママに受け入れられるはずがない。時代がどうでも世間がどうでも、ママはママだ。
< 107 / 111 >

この作品をシェア

pagetop