ビルに願いを。
それに、なんで今?

「冬には帰るのに?」

「連れて行こうと思ってたんだけどさ」

わかった。一緒に住む部屋を用意するから、そこで待っててってことだ。たまには帰ってくるとか、そういうこと。

「いやだよ」

「え?」

「そんな部屋いらないから」

涙目になった私を、理解できないように見る。待つのが得意だとか思ってるんでしょ。違うから。

「お願い、連れてって。待ってるなんて無理。私はケイティじゃないんだから。何ができるかわからないけど、丈がいるところに行きたいの。すぐに飛んできてくれるって言っても、離れているのは嫌だから」

一生懸命に言ったのに、丈は首を傾げて苦笑する。

「杏は、勘違いが多い。早とちりって言うんだっけ」

「早とちり?」

「一緒に住もうって言ってるし、ひとりになんかしないってこないだからずっと言ってるだろ。信用してない?」

信用してないわけじゃないけど、だったらどういうこと。

「仕事はどこでもできるから、東京オフィスにもう少しいようと思って。向こうに帰るときには杏も連れて行く。動物でも婆さんでもないし、ついて来るだろ?」

うん。連れてって。どこにでも。それが間違いでもいいから、ついてくよ。



そうか。もしも、ママに反対されてまた罵られたとしても。それでも、今の私は迷わない。

ママの理想だった私はもういないけれど、私は私をもう嫌いじゃない。

「杏を傷つけてボロボロにしたと思ってるんだってさ、ママは」

中途半端に話し合ってまた傷つけ合うのは辛いだろうというパパの意向もあるって、と丈は言う。

「でも、お互いに十分に立ち直ったと思うから、もう会わせてやりたいって圭さんが言ってたよ」

本当に? ママも後悔しているのかな、私と同じように。それで、ちゃんと立ち直った?

「会いに行く?行かない?」

「行く」

目を見て答えた。私もそろそろ前に進まなくちゃいけない。

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