ビルに願いを。
東京タワーが見えるあの席はあのまま。丈が1人で集中したいときに時々使っている。

今朝はブースの中で2人、コーヒーとサンドイッチで軽い朝ごはんにする。

「週末またママが遊びに来るんだろ?それまでには終わらせるから」

「それは嬉しいけど、無理しないでね」

「エラーなくさっさと終わりますように」

ねぇ、東京タワーを拝んでどうするの。特別なのは、このB.C. square TOKYOなんだよ?

間違いを非難するように無言で見ると、丈は「いいんだよ」と笑う。

「俺の願いを叶えてくれたのは、あっちのタワーなんだから」

私があそこで指輪をはずしたからなんだって。なんだか丸め込まれたような気がするけど、まあいいかな。

「ずっと一緒にいられますように」

私も手を合わせてみる。

目を閉じているときに、スッと右手を取られ薬指にキスされた。

小さな輝石の入った金色の指輪。引っ越した時に、丈が贈ってくれたもの。別に何も言葉はなかったけれど、嬉しかった。



「ジョー、アン、どこかにいる?」

誰かの声がして、丈が立ち上がる。

私も行こうとしたら手をつかまれたまま「もうちょっと待ってて」と言われて首を傾げる。

今呼ばれたのに? と目で尋ねた。

「左手用も贈るから、待ってて」

人を惹きつける静かな声が耳元に小さく響く。



うん、待ってる。

指輪にかけられた今度の呪文は、案外すぐに解けるかもしれない。



THE END



< 110 / 111 >

この作品をシェア

pagetop