ビルに願いを。


一度ビルの1階に降りてから、ホテルへのエレベーターに乗り換えてまた昇る。意外と面倒。つながっていたらいいのに。

4501室は角部屋で広かった。ダブルベッドにゆったりしたソファセット、大きなライティングデスク。

ホテルだから当たり前だけど、生活感が全くない。こんなところに毎日帰っているんだ、あの人。

ベッドの隅に寝かせてもらおうとして、そうだ、服のまま寝たらシワになるなと考える。こんなことになると知っていたらそれなりの格好で来たんだけど、昨日の今日で徹夜イベントになるなんて。

それにしても、ベッドを見るといきなり眠くなってきたよ。ちょっとだけ深く寝たら戻ろう。








おでこに暖かいものが触れた感触で、意識がゆっくり浮上してくる。前髪を柔らかく撫でられる。帰って来たんだ。

「まだ眠い」

「起きて。寝すぎ」

「何時? 圭ちゃん、いつ帰って来たの?」

目を開けたくなくてシーツを上に引っ張る。本当に眠いんだってば。

「起きろって」

掴んでいたシーツを勢いよく途中まではがされて、寒さに縮こまる。ひどい、と目を開けて、見慣れぬ部屋に一瞬で記憶が戻ってくる。

そうだ、丈の部屋に泊めてもらったんだった!

お互いに一瞬固まった後、丈が早口の英語で何か罵るように言いながら目をそらした。



聞き取れないけど、最後の単語はわかる。bitch。ビッチ、軽い女、誰とでも寝る女ってことだ。嫌なものを見たって感じ。

とにかくサイドテーブルに置いた服を引っ掴んで立ち上がり、広いバスルームに駆け込んだ。

服がシワにならないようにと、上下の下着姿で寝ていた。泣きたい気持ちでとにかく服を着る。

なんで、なんでいるの。キーは私が借りてるのに。ホテルのキーって合鍵とかあるの?

誘ってるみたいに思われた? そんなんじゃない、私には薬指のお守りがあるのに。丈にはそんな風に思われたくなかったのに!


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