ビルに願いを。


そのまま無言で登った。丈はたぶん最後まで、一度も振り返らずに。

引っ張り上げられるように大展望台に到着し、乱れた息をやっと整える。きつかった。これをコースにするのはやめよう。

「お帰り」

からかうように言われて、私から手を離した。何かを勘違いしちゃいそうだから。






ぐるりと一周できる展望台は、足元から頭上まで、東京中を遠くまで見渡せる。

「で、ここからまたB.C.を見るって?」

「そう。あっちからタワーがきれいに見えるんだから、こっちからでも見えるでしょ」

「本当に好きなんだな」

そうだよ、悪い? B.C. squareは特別なビルだと最近私は本当に思ってる。

ビルは東京タワーのようには目立たなかったけれど、ちゃんとすぐに見つかった。日差しを受けて光っている。うん、やっぱりきれいな建物だ。




「あのビルに向かって願いごとをするといいよ」

「なんでだよ?」

丈は笑うけど、気にせず手を合わせて祈った。

「ちゃんと叶ったの。仕事も見つかったし、クビにもなってない」

「それはすごいな」

おかしそうに笑う。信じてないでしょう。でも本当の話なの。

「丈のことも私も祈ってるけど、もしかしたら自分のことじゃないとダメなのかも。だから自分でも祈って」

「俺のこと?」

「早く帰れますようにって」

「……ありがとう」

少しの間の後に真面目な顔で言って、両手を合わせて拝んでいた。大丈夫、きっと叶うよ。
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