ビルに願いを。
それからいろんな方向を見て回って、東京湾にかかる橋が見えるところで丈が足を止めた。

「少しサンフランシスコに似てるな、この街も」

ゴールデンゲートブリッジのことだろうな。海辺の街だ、あそこも。

「そうだね。でも東京のほうが平らだし、ずっと広いでしょ」

「来たことある?」

「中学の時、家族旅行で。ロスのディズニーランドにも行ったよ」

懐かしいなぁ。私の高校合格祝いで、珍しく親子3人での旅行だった。私以上にママがひどくはしゃいでいた。

後から思えば、家族が壊れていく前の最後のお祭りみたいな時間だったな。






ただのデートみたいになってるけど、仕事だってことを忘れてるわけじゃない。

「チェックポイントを通過するのにアプリで仕掛けが欲しいなって」

「B.C.から歩いて回れるあたりだろ?難しくはなさそうだけど。それで最後が東京タワー?」

「うーん、丈には最後を知られたくない」

無言で、なに言ってんの?っていう視線が来る。

「参加者として楽しんで欲しいから」

「それも誠也との取引か」

あからさまにがっかりされた。違う違う、それだけじゃない。

「それもあるけど。東京のことも好きになって欲しいと思って」

「もう好きになってるよ?」

説得しようとした私をじっと見てそんなことを言う。ドキッとさせないでよ。

「忘れてたけどね、そういうの」

丈には動揺する気持ちが伝わったらしく、また薄く笑っている。



性悪だ。やっぱり慣れてるんじゃないの、恋の駆け引きみたいな? だんだん素が出てきてるのかな。

セレブだもんね。見た目が気に入った子と適当に遊びながら本命は別にいる。そんなのちゃんとわかってる。





「管理者がパラメータ設定できるようにすればいいな」

このくらいの言葉はもうわかる。

パラメータ、または引数。自由に変えられる値。ルートやゴールは自由に書き換えられる汎用的な形に作ることになるんだろう。

なんにせよ、丈なら片手間にちゃっちゃとできそうな感じだ。

しばらくこの関係で外に連れ出せるとして、チームを組むようにするにはどうすればいいかなぁ。誰かと一緒に作ろうってうまく誘えるかな。




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