ビルに願いを。
本当のことを話したら、この人も軽蔑したり憐れんだりするよね。でも、言わなくちゃ。

自分の話をしてくれた丈に嘘はつきたくない。

でも、いざとなると決心がつかなくて、ふーっと息を吐く。



「前に進むしかないんだってさ」

丈が、川を眺めたままで言った。

「誠也がそう言ってるし、俺もそう思う。考えてもどうにもならないことは、どうでもいいよ」

何も言ってないのに、この人は何かわかっているんだろうか。それとも何か美しい勘違いかな。



だったらそうだ、このままでいよう。

指輪をはめて清く正しく生きている、この私だけを覚えててもらおう。

『私ね、誰とでも寝るビッチだったんだよ。自慢の娘が穢れて行くのに耐えられなくて、ママは心を病んでうちの家族は壊れたの』

そう言おうと思ってた言葉を飲み込んだ。

しかも、ママを傷つけるためだけにわざとそんなことを繰り返してた。

バカでビッチで親不孝。




そういう私を、どうしても知られたくなかった。

『そんな女だと思ってないよ』

そう言ってくれた言葉を取り消されたくなくて。彼の大事なケイティに似た、頑張り屋の私だけを覚えていて欲しくて。

ずるいってわかってる。

その代わり、ここで終わりにするから、いいよね?




日が暮れる前に立ち上がった。

「前に進むためには、もうちょっと仕事もできるようにならないとね。今日は帰ってオンライン講義のテスト終わらせるね」

「それもいいけど、なにか食べに行くだろ?」

「ううん。晴れるようにお祈りもしないといけないし」

「またお祈りか。しなくても晴れるよ。俺が保証する」



そう言って笑う丈を、適当な理由で、でも断固として断った。

なんとなく今日このまま一緒にいたら、何か起こりそうな気がした。そういう空気は読めるから、私。

理性を総動員して、ちゃんと1人で家に帰った。





フェニックスワーク以外のサイトで仕事を探してみる。

未経験者OKとか、経験何年以上とかいろいろ。資格を取ってみようかな、英語じゃなくてIT系の。

うん、大丈夫。

前に進むんだ。こんな夢みたいな時間をくれたB.C.に感謝して。道を踏み外さずに、前に向かえ。

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