ビルに願いを。
あの瞬間、私の言葉が確かに丈に届いた気がした。でも何日か経って、勘違いかもしれないなって思ってる。
あれから何も連絡はない。こっちから掛ける勇気もない。
気持ちを切り替えられて仕事をしていると聞くと嬉しいけれど、社長が思ってるみたいに私の電話が役に立ったとは限らない。
『その調子で』って言われてもなぁ。
圭ちゃんとのことを誤解してるなんて、たぶん今の丈にはどうでもいいことで。でも私は誤解を解かなければ、前みたいに話せるような気はしなくて。
電話なんかでどうにかなる話でもない。
アメリカは遠いなって、頭でわかってたことを今さら感じていた。
声でも文字でもすぐにつながれる時代なのに、やっぱり会えないのは遠い。
ふとした視線と短い言葉。無表情を装いながら時々目に宿る意志の強い光。思いがけない時にこぼれる笑顔。
そういう全部が丈を作ってる。会って話をしたかった。
翌朝、ぼんやり歩いていた通勤途中、バッグの中で携帯が鳴った!
もしかして丈から?と急いで取ったら、お久しぶりのメアリさんだった。
『アン? メアリ・キースよ、忘れてないわよね?』
あのいたずらな笑みが目の前に見えるような声だ。
『東京に行くの。また会えるかしら? またあのレストランに行きましょう。2回目は、リラックスしてエンジョイできるわよ』
約束をして電話を切った。落ち込みがちな最近だけど、1つ楽しみな予定ができた。
メアリさんがやりたいことをしていれば自分らしくなれると教えてくれたことも、思い出した。
好きになれた仕事。丈が教えてくれた仕事。
今はそれをちゃんとやって、彼を待とう。
未来がどうなるかはわからないけれど、今は、言い訳せずに自分のできることをしよう。急に気持ちが上を向く。