ビルに願いを。

メアリさんとは滞在中にまた会う約束をして、フロントの前で下りのエレベーターに乗る。

ちょうど隣にもエレベーターが上がってきて、同時に小さな音を立てていた。

乗りこんで前を向いたら、隣から降りてきた人達の中に、丈を見つけた。

帰ってきたの？



声を出す前に、気づく。女の人と一緒だ。今度は見間違いじゃない。だって彼女は隣で丈に腕を絡めている。

扉が閉まる瞬間に、丈がふとこちらを見て、目が合った。私の情けない顔を見られただろう。

そのまま、エレベーターは沈みこむように一気に下へ降りて行った。




1人きりの箱のなかで、今の光景をゆっくり理解する。

隣の女の子と腕を組んでいた。写真で見た子。ケイティの面倒をみていたはずの元彼女。スーツケースを引いていた。

ドアが開くと何も考えず、走り出した。

エントランスを抜けて、交差点を渡り、一直線に。いつもの場所でも振り向かず、とにかく走った。

腕を組んでた。今度は勘違いなんかじゃない。あの子を連れて来たんだ、東京に。

終わってたんだ、とっくに。

ケイティがいなくなって、身代わりだってもう必要ないんだ。

私がグズグズしてるうちに終わってた。ケイティを失った彼のそばにいたのは、あの人だったんだ。