勿忘草~僕は君を忘れてしまった。それでも君は僕を愛してくれた~。

その日の夕方、彩さんは少し元気なく帰って来た。
僕はそんな彩さんに努めて明るく『おかえりなさい』としか言えなかった。
僕は無力で弱虫だとその時、つくづく思ったし、改めて痛感した。
本当に僕には意気地がない・・・。
男なのに・・・だ。
「すぐにお夕飯、作りますね?あ、希望とかあります?無理なものもあるかと思いますけど、できるだけ希望に沿える様に頑張りますから希望があるのなら遠慮なく言ってください!」
彩さんはそう言うとニコリと微笑んで僕を見てくれた。
目が赤い・・・。
彩さんの目はほんの少しだけれど、赤かった。
きっと泣いたんだ・・・。
そう思うと僕の胸の奥は正体のわからない何かにぐちゃぐちゃに押し潰される感覚に襲われた。
嗚呼・・・苦しい。
「・・・要さん?どうかしたんですか?」
彩さんはそう言うといそいそと僕の元へとやって来てくれた。
彩さんはいつも車椅子の僕と視線が合わさるようにしゃがみ、僕と視線が合わさったのを確認してから話をはじめてくれる。僕はそんな彩さんの心遣いが本当に嬉しくて、有り難くて好きだ。
左足を失った僕。
記憶を失った僕・・・。
そんな僕でもちゃんと対等に見てくれていると感じるから。
彩さんのその心遣いは今日も変わらなかった。
だから彩さんのほんの少し赤い目が僕の目に余計に留まったのは言うまでもないことだ。
嗚呼・・・心が痛い。
心の痛みは体の痛みよりも苦しいものだと僕は最近、ようやく知った。
僕はまっすぐに彩さんのその大きな目を見つめた。
僕は彩さんのその大きな目が好きだ。
愛らしくて優しい彩さんの目・・・。
目は口ほどにモノを言うと言うけれど、それは本当だと僕は思う。
「・・・目、赤いですよ?泣いたんですか?」
僕は無遠慮にそう言った。
その言葉に彩さんは元から大きなその目をもっと大きくした。
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