勿忘草~僕は君を忘れてしまった。それでも君は僕を愛してくれた~。

僕は俯いている彩さんの頭にそっと手を置き、彩さんのその小さな頭をできるだけ優しく撫でてみた。
それと同時に彩さんが顔を上げる。
顔を上げた彩さんのその大きな目には涙がたっぷりと浮かんでいた。そして、何よりも彩さんは驚いた表情をしていた。
僕はそれに戸惑った。
まずいことをしたかな?
不意にそんなことを思う。
恋人でもないのに頭を撫でるのはやはりルール違反の行為だっただろうか?
またそんなことを不意に思った時だった。彩さんがニコリと微笑んでたっぷりと浮かばせていた涙をポロポロと溢しはじめたのだ。
僕はそれに先ほどよりも戸惑うこととなり、そして、今度は僕が驚きの表情を浮かべる番となっていた。
「あ、彩さん?・・・ご、ごめんなさい。僕・・・」
僕は本当に情けない声を発した。
僕はおろおろしながら微笑みながら泣いている彩さんを見つめ見た。僕の手は未だに彩さんの頭の上に力なく置かれている。
退けた方がいいのか退けない方がいいのかわからない今のこの状況に僕は大いに悩まされていた。
そんな僕の悩みを消し去ってくれたのは彩さん自身だった。
「嬉しい・・・」
彩さんはそれだけを呟くと頭の上に置かれている僕の手を握り取って、その手を自分の頬へとあてがい嬉しそうに微笑んでくれた。
彩さんの頬はひんやりとしていて当然のことながら涙で濡れていた。
・・・嗚呼、懐かしい。
そんな感情が不意に浮かんでシャボン玉のように消えた。
今のは一体?
そう思う間もなく僕は彩さんに微笑んでどこか慣れている手付きで未だに溢れ落ちてくる彩さんの涙をその手で拭い取っていた。
「・・・要さんの手、暖かい」
彩さんはそう言うと照れ臭そうに笑んで小さな声で『ごめんなさい』と呟き、そして、そのすぐ後に『ありがとうございます』と呟いた。
嗚呼、愛しい。
この人が・・・彩さんが愛しい。
本当にそう思う。
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