貪愛
「あれこれと無用な心配をすることだ」
「…」
「杞憂は俺だけに杞憂していろ」
「全くもって意味がわからん」
何が言いたいんだ?
この男に対して僕が無用な心配をずっとしていろというのか?
何故だ。理解に苦しむ
眉根を寄せて口元だけは変わらずにこやかな笑みを浮かべている男を見つめてしまう
目が隠されている分、口元の僅かな表情で男の心情を見抜かなければならないのは途轍もなく面倒だなと思った
「まあわからなくてもいい。とりあえずは契約してしまおうか」
ゆるく言うこいつは本当に理解不能だ
普通はこんな雑談より契約の方が先だろうと思ってしまう
ケホッ、と腹部の痛みとダメージに大きく息を吐き出しながら自分の魔力を纏った
「我が名は鴟梟(しきょう)。七つの大罪が一人マモンに名を授ける」
人間の言葉に呼応して自分の魔力が吸い寄せられていくのを感じた
鴟梟と名乗った人間の洗練された魔力が僕の身体を包み込んでくる
「杞憂。それが貴様の名だ」
再び告げられた名前はその響きとともに魔力を乗せて僕の身体に刻まれる
頰が熱くなり、刻印が浮き上がってくる感覚がわかる
魔力を有しているものなら誰もが持っている化身
その身に形として宿る化身は一人一人違う