桜ノ蕾
何処か気まずい雰囲気が広がる。
私も彼も何も言わない。
助けて貰ったんだからちゃんとお礼言わないと。
でもさっき怒鳴ったばかりだから気まずい。
「……か?」
ふと彼が何か言った。
「え?」
彼の方を見ると、眉を歪めて遠慮がちに呟いた。
「迷惑だったか?」
口を開こうとしたけど言葉が出てこない。
そんな私に次は真っ直ぐこちらを見てもう一度口を開いた。
「止めに入らぬほうが良かったか?」
私は大きく首を振る。
それを見て彼はほっと安心した顔をした。
「追いかけてみたらライが連れて行かれそうになっていたので焦ったぞ」
それを聞いて張りつめていた緊張が一気に解けてポロポロと涙が溢れた。
「あ、ありがとう。本当に怖かったから……貴方が来てくれて本当に嬉しかった」
そう言うと、彼は微笑んで私の頭を優しく撫でてくれた。
撫でている手は凄く温かくて安心する。
あの男に触られたときと大違いだ。
顔を上げて彼を見ると、額にほんのり汗で湿っている。
私、一方的に怒鳴っちゃったのに……
ここにはここの考え方がある。
小夜ちゃんの話を聞いたときにそう思ったのに。
私は自分の常識を無理矢理押し付けて八つ当たりしてしまった。