【完】もっとちょうだい。
片付けも終わったし。
みんなそれぞれ駅に向かう。


もうほとんど誰もいない。

ヤヨとふたりで駐輪場へ。
自転車、ヤヨが押してってくれるんだって。


「今日、結局丸一日、一緒だったね」

手繋げないからね、
ヤヨのパーカーの端っこつまんで
そう言ったら。


「だなぁ。明日から俺バイト6連勤だからしばらく会えなくなるけど……」

って、あたしのテンション
一気に下げてきた、この人。

でもお金貯めてるんだもんね。
えらいよね。ヤヨは。


あたしだったらパパに頼んじゃうもん。
まぁ、パパ絶対
一人暮らしなんて許してくれないけどね。


「芙祐さ……今日どっか泊まんない?」

「え!?」

「ダメ?」

一回、一回だけね?
そういうところヤヨと行ったことある。
入口にのれんかかってる方のホテルね。


でも、でもあたし。
今日は……。


だっていつもそういうときはね。
前日に顔もボディも
ジェルパックするくらい
磨いてね?

ヤヨが好きそうな下着選んでね?


それ以外も色々と
ヤヨ絶対気づいてないけど
けっっっこうな努力してるんだよ。


頭のてっぺんからつま先まで
ヤヨの前では女磨き
ずっとしてたいの。
コレ、あたしの常識。


今日は、ブラウス濡れてるし
なんなら下着、
絶対ヤヨの好みじゃないカラーだもん。


「あたし今日は帰るよ」

「……そ」


そんなあからさまにへこまないで。

「大好きなんだよ?でも今日は、ちゃんとしてないから」

「ちゃんと?」

「ヤヨの前ではいつも、できるだけ可愛くしてたいの。今日はそうじゃないもん」

「……なにそれ?」


ヤヨ、くすくす笑ってる。

「ん、まぁ、なんかあるならいいや」

「今度いこ?」

「うん」


ヤヨ、自転車押してた足を止めて、
あたしに顔を近づけた。

ちゅって。
それはもう、さりげないキス。


「……大好き」

って、耳元で言わないで。




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