空色(全242話)

生理が近いという事は、必然的に長期連休をとる事になる。

美香が休みを終えて幸成と2人になるのが少し気になるが、それはそれで仕方ないかな。

幸成も人を騙す事はするけど、美香を傷付けたりする気は無いみたいだし。



『アユ』

考え事をしながら歩いていた私を、男が呼び止める。

『アユ、少しプレイルームで待機してな』

振り返った私の目には、幸成の姿。
幸成の大きな手が私の視界を遮るように瞳を覆う。

『何? また指名?』

もううんざりだと溜め息をつく。

『違いますよ。 とりあえず待機だけ』

何言ってんの?
今までそんな事言われた事ないし。

終わったら待機室で次の指名が入るまで待機。
待機中はゲームしたりお菓子食べたり自由だった。

それが急に個室待機なんて……

と、突然。
微かに床が揺れたような気になった。

いや、絶対に揺れた。

『テメェッ、ぶっ殺されてーのか!!』

何これ。
この声、一体……

『テメェみてーなクズ、生きてたって意味ねぇんだよ!!』

まさか藤原?
いつも藤原がいるのは、待合いのホール。

ここから少し距離がある。
にも関わらずハッキリと聞こえる言葉に、藤原の怒りが伝わる。

『待機室行くには、あそこ通らなきゃいけないんで、部屋行ってください』

幸成は腕を組み、顔色一つ変えずに話す。

『誰なの? お客さん?』

『いーえ、中村って人です。 俺達に仕事を教えてくれた先輩ですよ』

教えてくれた?
先輩?

それなら仲間でしょう?
何で平気な顔をしてるの?

『助けにいきなさいよ!』

幸成にとって、その人が先輩なら、
私達にとっての早苗と同じだ。

『無理っすよ。 とばっちり受けるだけっすから』

無理は知ってる。
私だって早苗を助けられなかった。

でも、助けたかったんだよ。

『酷いよ……』

消え入りそうに掠れた声は幸成には届かない。
遠くの藤原の怒鳴り声に掻き消されてしまったのだ。
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