空色(全242話)

公休日。
夜を待って美香と街に出た。

『あーん、可愛い~!』

と突然、美香がそんな声を上げる。

『見てよアユ! 新作だよ!』

美香が見ていたのは、有名海外ブランドのバッグ。
少し大きめで、心惹かれるデザインだった。

『それより下着買いに行くんでしょ? 早く行こ』

私はそれを見ないふりで美香を追い抜いた。

美香は少し戸惑いを見せながら私の後をついてくる。

『アユって本当、興味ないよねー』

別に、興味が無いわけじゃない。

私だって普通の二十歳の女の子だ。
バッグの1つや2つ欲しいと思うよ。

でも、私にはバッグなんかより大切な物があるんだ。

『今日バッグ買ったってすぐ給料貰えるじゃん? 日払いだしー』

名残惜しいというように、バッグを横目でチラチラと見る美香。

私は美香が何のためにBabyDollにいるのか知らない。
生活のためか、欲のためか……

少なくとも私は欲のためなんかじゃない。

もっと大事な……
大切な、お母さんのため。

『私、月末払いにしてもらってるの。 日払いだと使っちゃいそうだから』

『へぇ。 しっかりしてんだね、アユって!』

お母さんは昔から少し体が弱い。
いつもお父さんに支えられて、生きてきた。

『うちお父さんいないから。 しっかりしちゃうんだよねー、自然と』

『そうなんだぁ』

『うん』

そのお父さんももういない。
いなくなってしまった。

私のせいで。
私がしっかりしていないから。

だから今、私がお母さんを支えていきたいと思う。

『行こう、美香』

私はバッグの誘惑を振り切るように、冷たいアスファルトの上を進んだ。
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