空色(全242話)
『おはよーございます』
十和の部屋から数分のBabyDoll。
こんな近いだなんて、少し怖くなる。
もし、誰かが見ていたら?
十和と私の事、気付いていたら?
『おはよう、アユちゃん』
そんな不安は、藤原の笑顔に掻き消された。
よかった。
気付かれてはいないみたいだ。
『アユちゃん。 美香ちゃんがまだ来てないんだけど、知らない?』
……え?
美香が?
『知らないですけど』
幸成の仕事ぶりは完璧だ。
必ず同じ時間に迎えにきて、同じ時間に到着する。
遅刻なんて、今まで無かったのに。
『ちょっと、アユちゃんから連絡してもらえる?』
『……はい』
何だか、胸騒ぎがする。
《プルルルル プルルルル》
電話の呼び出し音が長く続く。
マナーモードにしてるのかな。
ちっとも出ない。
ハァと白い溜め息を一つつき、空を睨む。
眩しい程の光を放つはずの星達も、この街のネオンには勝てそうもない。
なんだか霞んで見えてしまう。
と突然、黒い乗用車が目の前に止まった。
これ、幸成がいつも使う車だ。
『あー、おはようございます』
ほら、運転席に幸成が。
……あれ?
こいつ、頬赤くない?
『早く鍵開けて。 遅刻しちゃうんだけど』
後部座席には、不機嫌そうな美香。
そんな美香に対し、幸成は黙ってロックを外す。
『私、幸成くんが謝るまで口きかないからね』
そう言い残し、美香は私の横を通り過ぎていく。
謝る?
一体何の事?
この頬の赤みは、美香のせいなの?
珍しいな。
美香が誰かと喧嘩なんて……