空色(全242話)
【笑顔が見たい】
偽りのない真っ直ぐな目。
全てを見透かされそうで、なんだか恐い。
『馬鹿みたい……』
ゆっくりと目線を外すと、ベッドに腰を下ろした。
『よく言われる』
十和は軽く苦笑すると同じように座る。
ほのかに香る香水の香りに、
少し心が落ち着いた。
14の夏。
私はある男に出会った。
綺麗だね。
可愛いね。
最高だね。
男はいくつもの褒め言葉を並べた。
【好きだよ】
そう言って、優しく抱いてくれた。
でも男は消えた。
ボロボロの紙幣(シヘイ)を置いて……
あれから男なんて信じなくなった。
男の目的なんて1つしかないもの。
いかに美しい女を抱けるか。
ただそれだけでしょ?
現にそうでしょう?
美しくいれば、たくさん稼げるもの。
『笑顔なんか見て、どうなるっていうの?』
だからそんな事言われても、口説き文句にしか思えないのだ。
『幸せになるよ』
『幸せ?』
馬鹿馬鹿しいわ。
笑ったところで何1つ変わらない。
それは私がよく解ってる。
『親や友達。 家族や大事な人が笑うのって、幸せだと思うんだ』
『……は?』
『金や権力があるより、ずっと幸せだよ』
十和は笑う。
何故かその横顔は寂しそうにも見えた。
確かにそうかも知れない。
私も、お母さんが笑ってくれるなら何でも出来る。
笑顔が見たいから、こうして稼ぎ続けてる。
でも、
もうしばらく笑顔を見ていないなぁ。
『ま、一種の無い物ねだりだよねー』
と突然、そう言い切ってみせる十和。
無い物ねだり。
きっとそうだろう。
無いから欲しいんだ。
大切な人の笑顔が。
平穏な暮らしが。
欲しくて仕方ない。
『だからさ。 アユも笑ってよ』
そして無邪気に笑える十和が、無性に羨ましいのも、
無い物ねだりだと思った。