空色(全242話)

ビニール袋にいっぱいの空き缶。
ほとんど残っていないツマミ類。

今日もまた十和の帰る時間がやってきた。

『後5分、か。 早いな』

時刻を確認し、携帯をパチンと閉じる十和。

私はそれを見ながらゴミの片付けを始めた。

『早いよね、50分』

そう心の中で思ったのだが、どうやら声に出ていたらしく、十和は照れたような笑顔を見せた。

悔しいくらい綺麗な顔。
オーナーや藤原達と、同じ素材で出来た人間とは到底思えない。

『楽しかった?』

十和はゴミを受け取ると同時、そう問い掛けた。

『別に』

楽しいとか嬉しいとか、
そんな感情はない。

十和は私にとってお客様。
例えセックスをしなくても、それ以上でも、それ以下でもあってはならない。

ただ1つ言える。

『でも、苦痛じゃないよ?』

これだけは他の客と違うと、
彼に対してだけは、不快感無く接する事が出来るのだ。

『じゃあさ。 延長していい?』

『……え?』

延長?

『明日、朝から仕事だから30分だけだけど。 駄目?』

十和は少し寂しそうに意見を求めた。

『駄目じゃないけど……』

延長するのだって無料(タダ)じゃない。
延長料金が発生してしまう。

この人のどこにそんなお金があるのだろう。
ついさっき「私生児だ」と名乗ったばかりじゃないの。

『アユが迷惑なら帰るよ? どうかな』

迷惑、じゃない。
でも、そんなに無駄なお金は使わせたくない。

『帰って。 延長料金、かかっちゃうから』

私なんかのために、十和が貧しい思いをするなんて嫌よ。

『そんな理由じゃ帰らない』

『何で……』

『言ったろ? 俺はただアユと話すのが目的だって』

そのためなら金も惜しくはないって言うの?

『馬鹿よ』

そんなの駄目だ。
私、あんたに何も返せないんだよ……?
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