空色(全242話)

私には何も返せない。
何も出来ない。

セックスするしか、芸の無い女。
それが私なのだ。

体を求めない十和を喜ばすなど、到底出来そうもない。

『馬鹿でいいよ。 自分でも、そう思ってるし』

十和はそう言うと私の髪をクシャクシャっと撫でた。

目にかかった髪に透け、十和の顔が見えるが、その顔は何故か笑顔だった。

何で笑えるの?
どうして私なんかに……

『私、あんたに何も出来ないよ?』

それどころか、お金だけ奪ってる。
風俗嬢としての仕事すらせずに……

『じゃあ1つだけお願いしていい?』

『お願い?』

思い当たる節も無く、首を傾げる。

そんな私を伺うように十和は身を屈(カガ)め、顔を覗き込んだ。

こんな風に男の人に見られるのは初めて。
上目使いは女の特権。
そして武器。

男の人でも、こんなに※妖艶(ヨウエン)だなんて知らなかった。
(※あでやかで美しいこと)

『俺の事、名前で呼んで?』

『名前?』

まさか、それが願い事?
そんな陳腐(チンプ)な事なの?

『他の客より一歩前に出たいんだ。 駄目?』

おそらく他の男なら常識外れた事を命じただろう。

こんなチャンス、滅多に無いのだから。
これ幸いに馬鹿な事を言う。

それが今まで私が見てきた男なのだ。

なのに、この男はもっと馬鹿だ。
名前なんて、この機会を使わなくてもいつだって頼める事。

『……十和』

でも、
そんな馬鹿は嫌いじゃないよ。

『ヤバイね…… マジで嬉しい』

そんな顔を真っ赤にして。
顔も緩んじゃってるし。

本当に馬鹿みたい。

『ほーんと、十和は馬鹿だなぁ……』

私まで可笑しくて笑っちゃうじゃん。
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