空色(全242話)

『愛を、結ぶ?』

自分の名前を口に出すのはどれくらいぶりだろう。

ましてや相手が男なんて、
今までに無かったかも知れない。

『馬鹿でしょ? うちの親。 当て字にも程があるよね』

一体どこの誰が愛結をアユと読むのだろう。

もしいるのなら、そいつの顔を見てみたい。

『何で? 解りやすいじゃん』

『は?』

解りやすいって、
そんなわけないでしょう。

こんなに解りづらい名前、他に見た事ないよ。

『愛の結晶って事だろ? 俺には、羨ましいけどね』

「私生児」
そう言った十和の顔を思い出してしまった。

十和には決して付けられる事のない名前。
私ってばなんて事を……

『仲良かったんだね。 アユの両親』

十和は何とも思っていないとでも言うような笑顔を見せる。

なんて強いんだろう。
私もこれくらい強ければ、
きっとここにはいない。

『仲良かったけど、もう別れちゃったよ』

『え?』

『どんな仲良し夫婦も、別れる時って見苦しいんだよね』

もう詳しい事は覚えていないけど、円満な別れではなかった。

『お互い私が要らないみたいでさ。 譲り合ってんの。 酷くない?』

今となっては笑い話。

愛が終わると同時に、
その結晶も要らなくなるらしい。

本当に人間って汚い。

『だから愛結なんて名前は、好きじゃないんだよねー』

そう言って今まで見なかった十和の顔を見る。
そして目を疑った。

『何、泣いてんの……?』

透き通るように澄んだ瞳から、涙が一つ零れ落ちたから。

同情?
私が可哀相な人間だから?

いや違う。
十和は違う。

『ごめん、なんか、俺……言葉が浮かばなくて』

この人は解るんだ。
私の気持ちが。

『馬鹿。 男のくせに……』

私が、十和を解ったように……
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