空色(全242話)
午前0時。
BabyDollに閉店時間がやってきた。
『お先に失礼しまーす!』
美香は元気よく、受付の藤原に声を掛ける。
『2人ともお疲れ様~』
私は美香の影で、小さく頭を下げて店を出た。
損な人間だと自分でも思う。
美香のように笑顔で明るく挨拶すれば、きっと特別になれる。
可愛がってもらえる。
でも出来ない。
無駄にプライドが高く、厄介な性分だ。
『お疲れ様』
店の前に止まっている黒い乗用車の運転席から、幸成が上半身を乗り出す。
『帰りも幸成くんなんだぁ。 よろしくー』
無邪気な笑顔を向け、何の抵抗もなしに乗車する美香。
私はこの男が嫌いだ。
性格、存在。
何が嫌いか上手く言えないけど、何故か受け付けられない人種。
『アユさんも早く乗って! 置いていっちゃいますよ?』
『わかってる』
美香が乗るから乗るだけ。
美香が懐いていなければ、こんな奴の車に乗るわけがない。
『幸成くん、仕事は慣れたぁ?』
車が走り出すと同時、
後部座席、私の隣の美香は助手席と運転席の間から顔を出した。
『まだまだっすよー。 思ったより大変なんすね?』
ハハッと笑う幸成。
『でしょー? 何か、わかんない事あったら言ってね。 私がわかる事なら教えるし』
それに対し、美香は優しい笑みを返す。
いつも私に見せるのと同じ笑顔。
自分ではなく、他人に向けられたそれに違和感を感じたし、妙な嫉妬を覚えた。
『アユさんも、先輩として可愛がってねー? 俺の事』
何処が本気で何処から冗談か解らない男だ。
やっぱり好きになれない。
例え誰かに「好きになれ」と命じられたとしても、
何かと引きかえに脅されたとしても、
好きになる事はないだろう。
そう頭の中で思いながら静かに目を閉じた。