空色(全242話)

【力ずくで手に入れる】

幸成はそう言った後、
不敵な笑みを、私に向けた。

『いい加減にして』

冗談じゃない。

何で私が、こいつの勝手に巻き込まれなければいけないんだ?

私は平穏に過ごしたいのに。

『冗談だと思ってるでしょ』

幸成は私の腕を掴むと、そう言った。

掴まれたのは肘(ヒジ)の少し下。
それなのに幸成の手が簡単に一周し、余ってしまう程だった。

『こっちは、冗談じゃねーんだよ』

幸成の荒い台詞と同時、キスをされる。

いや、キスと言うより顔面を無理矢理に押し付けられた。

唇だけでなく鼻も頬も押され、息が苦しくなる。

『ッやめて!!』

やっとの事で幸成を突き飛ばし、車外に飛び出した。

擦り切れる程に唇を拭い、幸成を睨む。

『あんたみたいないい女、他にいないからね。 絶対に手に入れるよ』

ば、馬鹿か。
自分が今、どんな重罪を犯しているのか解っているの?

こんな事がバレたら、もうこの街にはいられない。

『さて、送りますよ。 乗って』

今までの荒い言葉遣いは何だったのか。
幸成は何も無かったかのように穏やかに喋る。

『乗らない。 歩いて帰る』

危険と解っていて、誰が乗るものか。
今更、優しくしたって遅いんだ。

『了解しました。 じゃあまた明日』

ペコリと頭を下げ、車に乗り込む幸成。
去ってゆく乗用車と共に、冷たい風が頬を撫でた。

また明日だと?

誰が行くものか。
明日は絶対に休んでやる。

『……悔しい』

再度、擦り切る程に唇を擦り、幸成の感触を消す。
消えるわけないものに胸が苦しくなった。

心安らぐものは無いだろうか。
嫌な事を忘れる位、夢中になれる事は……

『……空』

そうだ。
空を見に行こう。

雲一つない晴天の空を……
< 61 / 243 >

この作品をシェア

pagetop