彼に会うまでの21時間
 大通りを歩いていたところ、泣きながら歩いている小さな女の子とすれ違った。

 私はその女の子を放っておけず、来た道を引き返した。

「どうしたの?」

「ママとはぐれちゃったの」

「そうだったんだ。ママの携帯電話の番号はわかるかな?」

「わかんない」

「そっか。おうちにお父さんはいるの?」

「うん。いると思う」

「じゃあ、私と一緒におうちに帰ろうか」

「うん。お姉さんと一緒におうちに帰る」

 小さな女の子は泣き止み、私の右腕を掴んで歩き始めた。

 女の子の家は、彼の家とは逆方向の模様。

 どんどん離れてしまうけど、仕方がない。

「ここがあたしの家だよ」

 歩くこと七分。女の子の家に着いた。

「パパを呼んでくるから、待っててね」

「うん」

 待つこと数十秒。玄関の扉が開き、女の子のお父さんが出てきた。

「娘を家まで連れてきてくださって、どうもありがとうございます」

「いえいえ、どう致しまして」

「妻は電話で呼び戻します」

「はい」

「お姉さん! どうもありがとう! メリークリスマス!」

 女の子もお父さんも笑顔。すごく良いことをした気分。

 今夜は素敵なことが起こりそうな予感。

「メリークリスマス! それでは失礼します」

 女の子とお父さんに手を振って、私は彼の家に向かって歩き出した。

 現在の時刻は、八時十九分。あと十一分しかない。時間に遅れても、彼は怒らないけど、ちょっと急ぎ足。
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