彼に会うまでの21時間
 大通りの信号は長い。

 歩道橋を渡ったほうが断然早い。

 私は歩く速度を早めて、歩道橋に向かった。

 いちばん下の段に、おばあさんが座り込んでいる。

 どこか具合が悪いのだろうか、うーうーと唸り声を上げている。

「どうかされましたか?」

「孫の家に行く途中なんだけども、急に足が痛くなってしまってね」

「それは大変ですね。携帯電話はお持ちですか?」

「持ってないのよ」

「そうなんですか。救急車を呼びましょうか」

「いやあ、そんな大袈裟なことじゃないから」

「お孫さんの家は、ここから近いんですか?」

「ここからあと五百メートルくらいだよ」

「そうなんですか。私がおぶりましょうか」

「そうかい。すまないねえ」
 
 おばあさんをおぶってみた。思いの外、ずしりと重い。すごく重いけど、五百メートルなら、なんとかなりそう。

「あの角を右だよ」

「右ですね。わかりました」

 おばあさんに道を案内してもらい、なんとかお孫さんの家にたどり着いた。

「足の痛みはどうですか?」

「もう痛くないよ」

「それはよかったですね」

「お礼をしたいんだけども、家に上がっていかないかい」

「いえいえ、そのお気持ちだけで十分です」

「そうかい。今夜は本当にありがとう」

「いえいえ、どう致しまして」

 おばあさんは元気な様子でお孫さんの家に入っていった。

「おばあちゃん! メリークリスマス!」
 お孫さんだろうか、玄関から男の子の声が聞こえてきた。

 これで安心。

 現在の時刻は、八時三十三分。

 私は彼の家に向かって走り出した。
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